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【関連動画】『私は子どもを持つべきか?~気候危機世代のためらい~』(カナダ 90th PARALLEL PRODUCTIONS)

気候不安ブロガーのパカンヌです。今回は、2022年 カナダ 90th PARALLEL PRODUCTIONS制作のドキュメンタリー『私は子どもを持つべきか?~気候危機世代のためらい~(原題:THE CLIMATE BABY DILEMMA)』の内容を、特に「気候不安」の観点から再構成してお伝えします。この番組は、2024年1月19日にNHK「BS 世界のドキュメンタリー」で放送されました。

「私は子どもを持つべきか」悩む若者たち

ペイトン・ミッチェル(22歳 『気候ストライキ カナダ』共同創始者)

子どもを持つことが人生で一番大切だと思って育ってきたが、今はそう思っていない。私たちが住む世界に未来への希望がないから。気候変動に危機感を抱いて活動を始めて確信した。化石燃料に頼る経済と、安全な家族の生活は両立しない。地元の町の出口にある看板には「天然ガスは町の財産。子どもたちは我々の未来」と書いてある。この町で生まれ育った私が子どもを持てる気がしないのは皮肉なことだ。

子どもの頃、近所の石炭発電所の公害のせいで、私は喘息に苦しんだ。その治療のために母が経験してきたストレスや、私が病院で過ごした長い日々を思うと、同じことを他の誰かに経験させる気にはなれない。10年後の環境はさらにひどくなるとの研究がある。私は子どもが欲しいが、もし2030年に妊娠したとしても、その先、私に何が起こるか分からない。予定日まで無事おなかの中で育つか?流産しなかったとしても健康な子どもに育つか?気候危機の中で安心して生きていけるか?子どもをどう育てていいか分からない世界へ新しい命を送り出すことに、ためらってしまう。

私たちの世代は、安心して子どもを持つという権利を、石油業界にひれ伏す無責任な政府に奪われた。子どもを産まないという選択は、押し付けられたものだということを政府に知ってほしい。私は自分の子どもに安心な世界を約束できないのだから。

私が子どもを産まない選択をしたことを、両親に分かってもらうのは大変だった。自分の恐れを誇張してるのではなく、これが現実であることを理解してもらおうと努めた。

私は膨大な時間を気候変動への抗議活動に費やしている。子どもがいたら不可能なことだ。(活動のことを)周囲の人たちに理解してもらうのは、本当に難しいことだった。私がこの活動をしているのは、ただ騒ぎを起こしたいとか、人と反対の行動をしたい、とかではない。みんなが望むものを実現したいからなのだ。

私だって安心して幸せな家庭を築きたい。でも今起きていること(気候変動)を止められない限り、そんな未来はない。

ブリット・レイ(サイエンス コミュニケーター)

ある時、私や私の友人たちの中で、気候変動が人生設計に影響を及ぼしていることに気づいた。例えば、子どもを持つべきか、何人持つべきか。今は森林火災や洪水、干ばつ、食糧安全保障問題、熱波など様々な問題が深刻化している。それらを考え合わせれば、子どもの未来に対して深刻な不安を覚えるのも当然だ。気候変動は単なるSFホラーではなく、現実。この変化に子どもをさらすことに対して、どれだけ平気でいられるか、という原理的な問題になるのだ。科学的観点から気候問題を見ると、子どもを持つことに対して自信がなくなる。

私が本(『Generation Dread』)を書こうと思ったきっかけは、気候変動のせいで子どもを持つことをためらう若者が増えていることだ。この一年間、人々に数多くの聞き取りを行い、ワークショップを開催した。そして、気候変動が、子どもを持つことに関する人生設計とどうつながるかについて、各自の思いや考えを打ち明けてもらった。特定の方向のメッセージを発するためではなく、人々の様々な考えをより理解できる場をつくりたかったからだ。

→ワークショップ参加者1

「私が今楽しんでいるこの世界を、(気候変動のせいで)私の子どもは味わうことができないでしょう。そんな子育てをするのが不安で、眠れなくなる。」

→ワークショップ参加者2

「(気候変動の現実には)本当に胸が詰まります。自分の大切なものが何もかも指の間から滑り落ちていくのを見ながら、それを止められない無力さを感じるのだから。」

人々はいら立ち、子どもを持つべきかの意思決定にとても行き詰っている。子どもを持つことを恐れる理由は気候変動以外にもいろいろある。気候変動に関連して子どもを持つことを恐れる人の懸念は2つ。1つは、生まれてくる子どもが地球環境にさらに負担をかけないかという懸念、もう1つは、環境が子どもにどんな影響を与えるかという懸念だ。温暖化が子どもに及ぼす影響を心配する人(後者)のほうが、二酸化炭素の排出による罪の意識を持つ人(前者)よりもはるかに多い

気候変動の心理的影響とその広がり

ブリット・レイ(サイエンス コミュニケーター)

災害が起こるとPTSD(心的外傷後ストレス障害)や不安症などの増加がみられる。その一方で、将来の気候変動への不安から精神的な不調を起こすことも。いわばPTSDの前に起きるストレスだ。環境の悪化が人々の心の健康に影響を及ぼしている。「気候変動のせいで将来が描けないから大学に行きたくないと子どもが言っている」という話が、私のもとに次々と寄せられている。

ある政治学者の説では、気候変動の心理的な影響は、子どもを産まないと決断した女性の数が指標になる。子どもを持つことへの不安は重大な警告なのだ。

気候危機の中で子どもを持つ意味を私が最初に疑い始めた2017年頃は、そういう疑問を持つ人は、他にほとんどいなかった。でもその後、歌手のマイリー・サイラスのような有名人や政治家たちが声を上げ始めた。

→オカシオコルテス下院議員

「気候変動については科学的なコンセンサスが得られているので、若い人たちが真剣に疑問を抱くのだと思います。こんな状況で子どもを持って大丈夫かと」

突然注目度が高まり、多くのジャーナリストが取り上げた。私がこの疑問を持ち始めた2017年から数年後のことだった。

私は同僚と一緒に、世界10カ国で10000人の若者に調査を行い、その結果に驚いた。56%が人類の滅亡は決まっていると感じていたのだ。39%が、気候危機のせいで子どもを持つのをためらうと答えた。こうした若者たちの思いや考えは、政府に裏切られ、政治家たちにウソをつかれているという感覚から生じたものである。心理学でいう“制度的裏切り(:組織や制度が被害者を裏切ること)”の結果だ。

「子どもを持たない」運動の挫折と広がり

ブリット・レイ(サイエンス コミュニケーター)

この「裏切られた」という感覚を引き金に、『バース・ストライキ』という団体が「子どもを産まない」と宣言した。イギリスで始まった運動で、ノーフューチャー・ノーチルドレン宣言に近い。その目的は、子どもを産む・産まないの選択と気候変動の問題を結び付け、人々の関心を喚起することだった。

この議論を文明の自殺と解釈する人たちもいたが、当事者たちの意見は違う。

→ブライス・ペピーノ(バース・ストライキ創始者)

「他の人に子どもを持つなとはいいません。でも私たちは怖いんです。」

この運動に対して激しい反発が起こった。中には「発展途上国の人たちは子だくさんなのに、先進国には十分な数が生まれない」といった、右翼的で人種差別的な論調もあった。バース・ストライキ運動は誤解されたのだ。この運動が人口抑制を主張していると信じる人が多く、当事者たちは誤解を正そうとしたが、うまくいかなかった。結局、運動は中止に追い込まれた。

→エマ・リム(『ノーフューチャー・ノーチルドレン』創始者)

「ホロコスーストの生存者の子孫として、自分の子どもが再び人類最悪の事態に直面することを危惧します。政治家が気候変動に取り組まないなら、家族を持ち、子どもを産む夢を断念します。安心できる世界が来なければ子どもは産まない。

子どもを持ちたくないという心情が広がっています。私たち自身がこんなに苦しんでいて未来も暗いのに、子どもを迎え入れたいなんて、どうして思えるでしょうか。私は本当に母親になりたかった。私にとって大切なことなので、ここまでの行動はつらいものでした。軽い気持ちで下した決断ではありません。私に未来がないなら子どもを持つつもりはありません。そして子どもがいなければ未来はないのです。数千人、数万人の若者が同じことを言えば、世間が注目します。『ノーフューチャー・ノーチルドレン』運動の広がりには本当に驚きました。世界中の若者たちが賛同してくれたのです。」

気候変動の原因は“人口過剰”?

ジェイド・サッサー博士(カリフォルニア大学リバーサイド校)

「環境問題の原因は人口過剰だ」という説が広まった原因はいろいろある。この説は、18世紀後半、イギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサスから始まった。20世紀半ば、ポール・R.エーリックの著書『人口爆弾』は、「人口増加は核爆弾と同等の脅威だ」と説き、人々を恐れさせた。彼は70年代、人気のトーク番組に何度も出演している。

だが、人口規模と、資源の消費の仕方や地球の汚染との間に相互関係はない。アメリカの人口は世界のおよそ5%でありながら、世界の炭素排出量のおよそ4分の1を放出している。一方、人口増加率が最も高いサハラ砂漠以南の国々の炭素排出量は、多くない。だから、人口を減らすことを解決策としたところで、効果はないのだ。人口の過剰を環境問題の議論から外したとしても、子どもを産むことと気候変動との関係については、議論すべきことはたくさんあるし、やるべきこともたくさんある。

気候変動と人種との関係

ジェイド・サッサー博士(カリフォルニア大学リバーサイド校)

私の調査によると、白人以外の若者たちが子どもを持ちたいかどうかを考える時の一番大きな要素は、現在直面している問題だ。つまり、人種差別、ジェンダーやセクシュアリティによる差別、政治的な分断、といった不当な現実である。もちろん、気候変動の影響も心配しているが、人種差別や社会的な問題のほうが、より切羽詰まっているのだ。私自身は、子どもを産まない決断をしている。その理由は、今なお人種差別がこれほど横行する、深く分断された社会に子どもを迎えられないから。それに加えて、山火事で自宅から逃げなければならなくなった時、子どもを連れて非難したくない、というのもある。

ブリット・レイ(サイエンス コミュニケーター)

山火事はいつ襲ってきてもおかしくない状況だ。昨年は私の住む地域でも、恐ろしい火事が起きた。統計によれば、かなりの数の女性が、山火事にさらされていた間に流産や死産している。すでに気候変動は妊娠・出産を選択する権利を脅かしているのだ。

気候危機を背景とした妊娠・出産に関する選択は、私的なものであると同時に、政治的意味を持つ。気候問題、人種差別、社会的公正などが絡み合っているからだ。調査を進める中で、私は、気候変動に対する不安と、社会的な境遇の関係を考えるようになった。私は中産階級の白人で、未来を心配しているが、一方で、今まさに脅威にさらされ苦しんでいる人たちがいるのだ。

エマ・リム(『ノーフューチャー・ノーチルドレン』創始者)

気候変動を問題にするのは恵まれた人たちだという意見は、批判ではなく正当な見解である。私たちの宣言は、気候変動についてより大きな責任がある人たちに向けたもので、誰かに向かって子どもを持つなと言うつもりはない。社会の中心から遠ざけられた人たちが、子どもを持ち、自らの文化を伝えることは、積極的な活動であり、健康であり、回復する力なのだ。

サレイン・フォックス(先住民/アーティスト)

先住民族の中には、「世界が終わるだろうから子どもを持ちたくない」などと言う人はいない。子どもがいなくなったら征服者が勝つことになる。私にとって、子どもを育てることは、歴史から学んだ政治的な行動だ。それが存在や文化の抹殺から回復する唯一の方法なのだ。

(気候変動のもたらす)未来を想像すると、つらく苦しい気持ちになる。これまで存在や文化の抹殺と無関係に生きてきた人たちにとっては、経験のない苦しみだろう。今、彼女たちが抱いている、母親になることへのためらいは、毎日その感覚を抱いて生きているたくさんの集団がいることを知るきっかけになると私は思っている。

気候不安をどう乗り越えるか

ジェイド・サッサー博士(カリフォルニア大学リバーサイド校)

集まって、感情を表に表すこと、そして他の人の気持ちを知るための空間をつくる新たな手段や人材を見つけることが、とても重要。現状ではそれが足りてない。

ブリット・レイ(サイエンス コミュニケーター)

多くの人が(気候変動に)胸を痛め、恐れていながら、どうすればいいのかが分かっていない。このことを整理し、語り、話題にする土台がないからだ。だから私は、ニュースレターで、今の状況下で自分を見失わないための方法を書いている。オンラインや対面のサポートグループもでき始めている。気候問題を語り合うカフェ、不安に打ち勝つための十段階プログラムなど、名前もさまざまだ。自分の持つ恐れを打ち明け、それを認めてくれる人たちと話せる場所があると、気持ちがはるかに楽になる。だから、そういうコミュニティを見つけることが最初のステップなのだ。

気候危機の中で子どもを持つか否かを考えていた時、最初に出会ったのが“コンシーバブル・フューチャー(想定される未来)”だった。活動家が率いるネットワークで、人々が自由に話し合う場を提供する活動をしている。

→ジョセフィン・フェロレッリ(『コンシーバブル・フューチャー』共同創始者)

「気候変動のニュースといえば、氷山が崩れたり、ホッキョクグマが飢えたりという話が多く、深刻な問題だけど遠くの出来事というイメージがありました。しかし私たちは、気候変動を、今いる子どもや未来の子ども、そして、人々が子どもを持つ権利を守りたい、という文脈で考えていました。

→メガン・カルマン(『コンシーバブル・フューチャー』共同創始者)

「『コンシーバブル・フューチャー』のホーム・パーティーの意義は、活動の最初のステップになることです。“私は何のために戦っているのか”をしっかり確認するのです。」

→ジョセフィン・フェロレッリ(『コンシーバブル・フューチャー』共同創始者)

「ホーム・パーティーでは、気候変動が、妊娠・出産の選択にどう影響するのかを考える道筋を示します。まず全員に自己紹介してもらうことを(主催者に)勧めています。どこから来たのか、そして年齢も。それから、それぞれの考えをまとめて、書いてもらいます。自分たちの現状を言葉に表して初めて、それを変えていくことができるから。その後、再び集まって、それぞれの考えを全員で共有するのです。とても簡単なことですが、多くの人にとってこれが、この問題を考えるうえでのターニングポイントになります。」

『コンシーバブル・フューチャー』のホーム・パーティーにて

→アリエノール・ルージョ(「未来のための金曜日・トロント」共同創始者)

「私が親になることへの恐れについて語り始めた当初は、結局、“私がどれだけ怖がっているのか”の個人的な証言に過ぎませんでした。問題は、この先、子どもたちが耐えなければならないことです。そのことについて、どう思いますか?皆さんが(子どもを持つことを)ためらう理由は何ですか?

→参加者1(男性)

「僕は気候に関する仕事をしているので、気候変動についての詳細な情報にアクセスできます。知っているだけに、子どもをもつかどうかを真剣に考えます。それでも、こうした活動をしていれば、子どもを持つことは許されるのかな?」

→参加者2(女性)

「今の時代に子どもを持つのなら、覚悟ができた、適応力がある、勇敢な人間に育てなければなりません。そんな難しい挑戦をする準備が、私にできているのでしょうか?」

→参加者3(女性)

「適応力のある子どもを育てる覚悟があっても、子どもがどう反応してくるか分かりません。世界の状況に激怒するかも。それにも私たちは耐えねばならないのです。」

→参加者4(男性)

「二酸化炭素排出のほとんどの責任が企業にあります。それでも僕は立ち止まってためらってしまうのです。世界にはすでにたくさんの人間が生きていて、この多くの人口と地球をシェアすることが可能なのだろうか、もし自分が子どもを持たないことにすれば…と思ってしまう。状況はそれほどひどいんです。僕はこの深刻さを示すためなら、自分の人生を変えてもいいとさえ思っています。」

→参加者2(女性)

「同感です。私たちの社会体制、特に資本主義の社会では、絶えず問題が私たち自身に戻ってきます。私に責任があるとか、私が1人で決断をしなきゃとか。でもこれは、体制の問題なんです。どうすれば、私たちの代表であるはずの人たちに責任を持たせることができるでしょうか?それをすべきです。」

→参加者5(女性)

「私の決断は、今日はこう決めたけど、翌日には変わっていたり、いつもどっちつかずなんです。でも、私も同意します。今の時代に、子どもを育てる意義があると信じることができれば、心が落ち着きます。」

→参加者2(女性)

「私もずっとどっちつかずですが、大切なのは、何を選択しようと、今この瞬間、自分は何をすべきなのかを、自分に問うことです。もし、自分の愛のエネルギーを、活動やコミュニティへの貢献に使いたいのなら、それは賞賛すべきことだし、家族をつくりたいのなら、それも素晴らしいです。」

→参加者4(男性)

「子どもを持つと選択しても、持たないと選択しても、そこには愛があります。そして、その選択はコミュニティと結びついているんですね。」

ブリット・レイ(サイエンス コミュニケーター)

子どもを持つか持たざるかを考える時、家族の意味や姿を考え直すことも必要になる。気候危機に立ち向かうには、従来の核家族をはるかに超えたサポートシステムが求められる。生物学的なつながりがあろうとなかろうと、全員で子育てに関わらねばならない。

子どもを持つか持たないかは、片方が正しく、もう一方は間違いという問題ではない。希望と恐怖の間のグレーゾーンで進む道を選ぶしかないのだ。でも実際に産むか産まないかという選択は、二者択一で、そこにグレーゾーンはない。

自分のケースに限っては、子どもを持たないと決めるのは、恐怖に身を任せる選択だと考えた。子どもを持つことは、喜びと同時に責任を引き受ける選択。私は一生を懸けて気候問題に取り組む。

私の問いは、「子どもを持って大丈夫か?」から「気候危機の中でよい親になるにはどうすべきか?」へと変化した。それで産むという決断をした。でも、他のいろんな感情が出てきて、向き合わなければならなくなった。どんな決断をしようと、感情との付き合いは続く。

「こんな世界で子どもを持ったのは正しかったのか?」と悩む親たちがいる。そういう訴えに答えている私のお腹を赤ちゃんが蹴る。まさに存在そのものの強さを実感する瞬間だ。

今起きていることに不安を感じるのは、ごく普通のこと。それは病気でも異常でもない。精神科医が診断を下すたぐいのものではないのだ。人々がそれに蝕まれないよう、特に若い人たちを支援する必要がある。そして、こうした流れを気候問題の変革に役立てなければならない。

子どもを持つか否かという、もともと個人的な問題を突き詰めていく中で、理解も深まり、仕事上の大きなテーマになった。今、大学医学部のメンタルヘルス専門家たちと共同で、気候変動への不安に悩む若者をどうサポートすべきかを研究している。状況はどんどん悪化しているが、私たちには戦う力がある。しばしば誤解されることだが、希望というものがどこかに存在していて、まずそれを見つけなければならない、ということはない。まったく希望がない状態でも、行動は始められる。希望は、仲間と力を合わせて作り出すものなのだ。

気候危機のことを知ったうえで子どもを持つことを選択した人たちは、親としての新しい道を歩む。不安に苦しんでも治療法はない。気候正義の実現に向けて、みんなが行動を起こすしかないのだ。

本(『Generation Dread』)を書く中で、気候危機の世界を生き抜くための知恵も見つかった。例えば、不安で疲れた心に寄り添ってくれるコミュニティとのつながり、楽観主義と悲観主義のバランスを取ること、決して諦めないこと、そして今の瞬間を、人類の歴史という、より大きな文脈で俯瞰すること。これらを支えに、次の世代のための行動をすること。それが私たちの責任だ。

ペイトン・ミッチェル(『気候ストライキ カナダ』共同創始者)

私自身は、家族を持つとか持てるとか思えないところにいるが、私の身内には自分の家庭を築く人もいる。だから私は、未来の甥や姪たちのために、安全で強靭な世界をつくれるよう、全力を尽くすつもりだ。

気候危機はもはや避けられず、いかに適応するかの段階。人々は、頼り合えるしっかりとした共同体のきずなを持つことが大切だ。最悪の事態に直面した時、それが物を言う。未来を想像すれば、私たちのやっていることは愛の行動であり、家族とコミュニティのための行動なのだと思う。

(気候正義を実現するための)ムーブメントは起きていて、前進している。政府が本気になれば、もっと成果が上がるはず。そして、小さな勝利を続けることで、人々は希望を持ち続けられるだろう。

セヴァン・カリス・スズキ(環境保護団体エグゼクティブプロデューサー、1992年の地球サミットで環境問題についてスピーチ)

私が妊娠したと伝えた時、父(デヴィッド・スズキ カナダの日系 生物学者・環境活動家)は浮かない反応で、私にこう言った。「今、こんなひどい状況で、未来も不安だらけなのに、どうして子どもを産もうと考えるのか」と。その場が深刻な雰囲気になってしまったが、私はこう答えた。「私が子どもを産むということは、全力を尽くして未来の安全を確保するということ。自分の責任としてすべてを懸ける。」私たちは未来への準備をするために存在するのだと気づき、父はとても感動したそうだ。

息子が(気候変動について)私の子ども時代と同じ問題意識を持つようになった時、心が乱れた。息子が9歳くらいの頃、彼は人間がやったことに責任を感じ、気が滅入りがちになった。親として、見ていてとてもつらかった。息子は私以上に、重荷を深刻に感じていたのだ。彼は、「人間でいたくない。だって人間は地球にあまりにもひどいことをしてきたから」と思うようになった。

私を救ったのは行動だった。環境問題に対してとても悲しんでいる息子の様子を見て、その深刻さに気付いた私は、“一緒にゴミ拾いをしよう”と誘ってみたのだ。すると彼は再び、明るく元気な子どもに戻った。行動こそ私にとって特効薬。今、若い人たちにのしかかっている大きな不安を、いくらかでも軽減できる唯一の方法は、行動することだ。

あなたが親になるのなら、あるいはすでに親であるのなら、全力で人類を化石燃料から脱却させるべきだ。自分の生活を変えるのはもちろん、政治的な活動もすべきだ。まだおしまいじゃない。国連の報告によると、科学者たちは、“まだ流れを変える余地は残っている”と言っている。私たちには今、技術がある。再生可能エネルギーの価格は大幅に下がった。私は問題の解決に全力を注ぐつもりだ。

ルネ・ラーツマン博士(気候心理学者)

多くの若い人たちが、現在や未来の状況を悲観し、それがトラウマとなる。そして、怒り、いら立ち、無力感、悲しみといった、あらゆる感情に襲われるのだ。

私たちは、困難な時代に向かい、人々の苦悩と不安ははるかに増している。それは、必ずしも悪い面ばかりではない。西側の社会では、つらさや苦しい感情を否定的で悪いものだと考える傾向があるが、心理学的に見ると、多くの変化は一定の苦痛があって初めて起きるものだ。要は、私たちがその不安とどう向き合うか。苦痛や不安は、マイナスにもプラスにも作用する。単純なものではない。自分の感情について話し、その経験が認められて、皆に受け入れられ、自分が孤独でないと知ること。それが、不安と付き合う秘訣だ。

まずすべきなのは、気候変動の問題について、出会った人全員と会話をし、お互いの感情をしっかり理解することだ。これは、とても単純なことのようで、もっとも難しい行動だと思う。

サレイン・フォックス(先住民 アーティスト)

若い人たちには、さまざまな解決法に挑戦し、変化の一翼を担ってほしい。気候変動にまつわる不安は、自分は何もできない、という考えから引き起こされている。でも、破滅を受け入れて生きるのではなく、未来のために闘うなら、誰にも止められないほど強くなれるだろう。